
[ モノづくりの向こう側 vol.04 前編 ] fragrance yes・山野辺喜子さん
例年より少し早く、新緑の季節を迎えた東京。まだまだ収束のみえないコロナ禍ですが、街路樹の美しい緑につられて自然と視線も上向きます。本来なら、シャリンバイやツツジ、クスノキの花などが入り混じった風薫る季節でもありますが、その香りを感じられるのは、マスクを外した瞬間。鼻の奥をくすぐる爽やかな匂いに初夏の到来を実感します。
この一年と少しの間に身についた、マスクを着用する習慣のおかげで、「匂い」に敏感になったのかもしれません。
それは自然の香りに限らず、日常のあらゆる場面で感じるようになっていました。たとえば、ごはんを食べたあとすぐに、マスクを着用しなくてはならないときに、今までより口の中の匂いが気になったり、また、マスクで周りの空気を急に遮断してしまうことにより、おいしく楽しい食事のあとの幸せな余韻まで、かき消されてしまうような感じがするようにも。
「匂い」は自分たちが考えている以上に感情に直結しているのでしょう。
であれば、いい香りで気持ちや気分を上げていきたいもの。マスクにそんなエッセンスを吹きかけられれば......。
まだ寒さの残る時季に、あつあつのラーメンを食べたあと、ふと頭に浮かんだことでした。
そんな思いつきを形にすべく、植物療法をベースにセラピスト・フレグランスコーディネーターとして活動されている山野辺 喜子さんに相談してみることにしたのです。
はじめて、東京・赤坂にある山野辺さんのアトリエ『yes エルブメディシナル』を訪ねたのは初春のこと。扉を開けると、そこはまるでヨーロッパに古くから伝わるハーブ薬局みたいな空間で、ナースコートのような服に身を包んだ山野辺さんが「狭いところですけど、どうぞ好きなようにご覧ください」と、かぐわしい香りとともに迎えてくれました。

壁いっぱいに設けられた棚に並ぶ、山野辺さんが手がけるオリジナルブランド『fragrance yes』の製品たち。
精油やハーブ、ビーカーをはじめとするガラス器具はアロマの調合に欠かせないものなのでしょう。そこに混じって、なぜか斧と木工に使うカービングナイフが。

ーこれらの道具もアロマの調合で使うものなのですか?
「精油やハーブなど厳選した天然素材を使って製品をつくっているのですが、これからやっていく活動として、素材から商品になるまでの一連の流れも皆さんにお伝えしたいなと思っているんです。今はまだ原料を量産できるまでには至っていませんが、その一歩としてはじめたのが蒸留です。斧はその材料となる木々の枝葉を採るときに使っています」
ーカービングナイフはどういった場面で使用するのでしょう?
「蒸留の材料を採るために山に入ると、現在の日本の山が抱えている問題、たとえば、間伐材の使い道がなく、破棄するしかないというを現状を知って。ですが、都会暮らしの私にとっては、この捨てられるしかない木々はお宝。山に行くたびにいただいて帰っていたら、そのうちに山を管理している方々から、丸太いる?なんて声をかけてもらえるようになって。テイスティング用のサンプルをのせている我谷盆やスプーンは、この2種のナイフとノミを使って手づくりしたものなんです。Yの枝は、私のイニシャルが「Y」なので、つい集めちゃっただけのものなんですけど(笑)」

道具の選びかた、使いかたを伺うだけで見えてくる、『fragrance yes』の真髄。ただ適当に「いい香り」になるように調合して製品化しているのではなく、思いや言動、すべてに一貫性のある「ものづくり」なのです。そもそも山野辺さんの活動は、香りだけに特化しているわけではなく、フレグランス効果も含めた「植物療法」がベース。
「ちょっと前に青森にオオバクロモジを採りに行ったのですが、クロモジってほんのり甘く、それでいて、すっきりとした香りで。精油には殺菌作用もあるんですよ。マスクスプレーとしてもぴったりなので、使ってみましょうか」
次回、クロモジの蒸留作業をしていただきつつ、山野辺さんがこの仕事についたきかっけや思いについてお届けします。
文:多田千里
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https://kiguu.net/news/60a22ad40e24031846c53f64
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fragrance yes・山野辺喜子
Yoshiko Yamanobe
福島県いわき市出身。
セラピスト、フレグランスコーディネーター。
2014年にオリジナルブランド「fragrance yes」をスタート。
東京・赤坂のアトリエ「yes エルブメディシナル」を拠点に、肌のカウンセリングや安心して使えるスキン・アロマ製品の開発を行っている。